結晶とか

1. 結晶(crystal)

結晶とは、固体の構成原子が規則正しく配列したものである。理想的にはある繰り返しパターンで無限に並んでいるものを言うが、実際には物体の大きさは有限であり、そのような有限の大きさを持ったものを単結晶(single crystal)といい、微小な単結晶が集合したものを多結晶(polycrystal)という。
単結晶は、結晶中の全ての位置において同じ繰り返しパターンで周期的に並んでいるものである。ただし、大きさが有限であるため必ず界面が存在し、また点欠陥も完全に0にすることはできないため、欠陥のない完全結晶(perfect crystal)は存在しない。
多結晶は、微小な単結晶が集合したものである。多結晶は複数の単結晶から構成されているため、互いに隣接する単結晶間に結晶粒界と呼ばれる界面が存在する。一般に多結晶は単結晶より強度が小さい。
結晶を結合の種類によって分類すると、イオン結晶、共有結合結晶、金属結晶、分子結晶、水素結合結晶の5種類に分けられる。実際の結晶ではこれらの複数の力によって結合しているものも多い。

(1) イオン結晶(ionic crystal)

陽イオンになりやすい電気的に陽性な原子と、陰イオンになりやすい陰性な原子が近付くと、電子が陽性な原子から陰性な原子に移って正負のイオンが作られ、クーロン力によって結合が行われる。これをイオン結合(ionic bond)といい、このような結合で作られる結晶をイオン結晶という。イオン結晶は低温で導電率が小さく、高温でイオン伝導を示す性質を持っている。
イオン結晶となる物質にはLiH・LiF・NaClのようなハロゲン化アルカリ・MgO・CaOのような酸化物などがある。

(2) 共有結合結晶(covalent crystal)

原子同士でお互いの電子を共有することによって生じる結合を共有結合(covalent bond)といい、この結合による結晶を共有結合結晶または共有結晶という。共有結合結晶には、硬い、へき開しにくい、混晶を作りにくい、化学反応を起こしにくい、純粋な結晶では低温で導電率が小さいといった性質がある。
共有結合結晶となる物質にはダイヤモンド・ゲルマニウム・シリコン・シリコンカーバイドなどがある。

(3) 金属結晶(metallic crystal)

金属中では原子が電子を放出して陽イオンになり、放出された電子が自由電子となり、金属原子を結び付けている。このような結合を金属結合(metallic bond)といい、そのような結晶を金属結晶という。金属結晶は、導電率・熱伝導率が大きい、塑性を示す、容易に合金になるといった性質を持つ。
一部を除くほとんどの金属は金属結晶である。

(4) 分子結晶(molecular crystal)

ネオンやアルゴンのような不活性ガスの原子が作る結晶を分子結晶といい、ファンデルワールス(Van der Waals)力によって結合している。分子結晶では原子は電気的に中性のまましているため結合力は弱く、軟らかい、融点・沸点が低いなどの性質がある。
分子結晶となる物質には、アルゴン・ヘリウムといった不活性ガスのほか、酸素・窒素・メタン・アンモニアなどの極性を持たない分子もある。

(5) 水素結合結晶(hydrogen bond crystal)

水素結合(hydrogen bond)とは、窒素、酸素、硫黄、ハロゲンなどの電気陰性度が大きな原子に共有結合で結びついた水素原子が、近傍に位置した他の原子の孤立電子対とつくる非共有結合性の相互作用のことであり、水素結合による結晶を水素結合結晶という。
水素結合結晶となる物質には氷・KH2PO4(KDP)などがある。

2. アモルファス

アモルファス(amorphous)とは、結晶とは逆に原子の配列が不規則で乱れたものである。アモルファスとされるものの中でも、結晶構造を完全にもたないものと、光学的には結晶構造が見られない場合でもX線解析では弱い回折を示す潜晶質とがある。同じ材料でも結晶状態からアモルファスになることで、物性を大幅に変えることができる。
アモルファスの例として、ガラス・アモルファス金属・アモルファス半導体などがある。

(1) ガラス

温度を上げることにより融点での固体から液体へのはっきりした変化をせず、固体だったものがガラス転移点で軟らかくなって流動性を増すガラス転移を示す非晶質固体がガラスである。

(2) アモルファス金属

アモルファス金属は金属結晶ではなく原子が不規則に並んだ構造を持つ金属で、金属結晶とは異なる性質を示す。
第一に、強度が高いという性質がある。金属結晶には多数の転移と言われる結晶格子の欠陥があり、軟らかく強度を下げる要因となっているが、アモルファス金属は結晶ではないため転移がなく、金属結晶を超える強度を持つ。
第二に、ある種のアモルファス金属はほとんど腐食されない。これは表面に均一で良質の保護皮膜(酸化皮膜)を容易に形成するからである。結晶金属には、表面に結晶粒界、欠陥などが多くあるので、形成する膜が不均一になってしまい、そこから局所的に腐食が進んでしまう。
第三に、磁化しやすいという性質がある。アモルファスでは、原子が無秩序で結晶のような方向性がないので、物理的性質(電気・磁気的性質)にも異方性がなく均質であり、磁化のしやすさも、この均質な物性から軟磁性材料として優れた性質を示す。

(3) アモルファス半導体

アモルファス半導体とは、非晶質状態の半導体である。結晶状態の半導体とは種々の物性が大きく異なるのを利用して、受光素子などへの応用が行われている。

3. 準結晶(quasicrystal)

固体の原子配列は結晶かアモルファスのどちらかだと長年考えられていたが、最近アルミニウムやマンガンの合金で準周期構造を持つものが見出され、準結晶と呼んでいる。その構造はペンローズが考えた準周期を持つタイル模様に似ている。空間は全て埋め尽くされるが、配列の繰り返しはどこにも見られないのが特徴である。

参考文献

  1. 青木昌治 応用物性論 朝倉書店
  2. 横山嘉彦 アモルファスと準結晶 http://www.mse.eng.himeji-tech.ac.jp/mse/mse/inquire/yokoyama/amor.html
  3. M. A. White 材料化学の基礎 東京化学同人