PVDとかCVDとか

1. PVDとCVDの比較

表1 PVDとCVDの比較
- PVD CVD
製膜速度 遅い 速い
真空度 高い 低い
ステップカバレッジ 不良

(1) PVD(Physical Vapor Deposition, 物理気相成長)

物理気相成長(Physical Vapor Deposition, PVD)は、薄膜の原料として固体原料を用い、それを熱やプラズマのエネルギーで気化し、基板上で薄膜化する方法である。熱エネルギーを用いる真空蒸着、分子線エピタキシー(Molecular Beam Epitaxy, MBE)、それに蒸発粒子をイオン化するイオンプレーティング法(Ion Plating)、グロー放電プラズマを用いセラミック薄膜の堆積もできるスパッタリング法(Sputtering)が多く使われている。

主な方法には以下のようなものがある。

  1. 真空蒸着
  2. 電子ビーム蒸着
  3. レーザアブレーションMBE
  4. MOMBE
  5. 反応性蒸着
  6. イオンプレーティング
  7. クラスタイオンビーム法
  8. グロー放電スパッタリング
  9. イオンビームスパッタリング
  10. 反応性スパッタリング

(2) CVD(Chemical Vapor Deposition, 化学気相成長)

化学気相成長(Chemical Vapor Deposition, CVD)は、薄膜の構成元素を含むガスと原料とし、化学反応をその過程とした方法である。ガスに熱・光・電磁波などのエネルギーを加えて励起や分解を行い、基板表面での吸着・反応・解離を経て薄膜を堆積する方法で、用途に応じて使い分けられる。CVD法の利用分野は増加の一途をたどっており、更なる発展が期待されている。常圧(大気圧)や加圧した状態での運転が可能な他、化学反応を活性化させる目的で、反応管内を減圧しプラズマなどを発生させる場合もある。

主な方法には以下のようなものがある。

  1. 熱CVD
  2. 有機金属気相成長(Metal Organic CVD, MOCVD)
  3. RFプラズマCVD
  4. ECRプラズマCVD
  5. 光CVD
  6. レーザCVD
  7. 水銀増感法

2. 真空蒸着

PVDの一種で、10-4 Pa以下の真空中において、固体を加熱蒸発させ、この上記を一定の温度に保った基板上に冷却凝縮させて薄膜化する方法である。蒸発源の加熱方法によって以下のように分類される。

  1. 抵抗加熱法
  2. 電子ビーム蒸発法
  3. 高周波誘導加熱法

真空蒸着は光学薄膜(メガネやレンズの反射防止膜、特殊ミラーなど)、磁気テープ(オーディオテープやビデオテープなど)、ディスプレイ構成の電極・半導体膜・絶縁膜など(プラズマディスプレイや有機EL、液晶ディスプレイなど)、電子部品(抵抗やコンデンサ、半導体集積回路など)、食品包装材(スナック菓子などの袋に用いられているアルミ蒸着フィルムなど)、ファッション素材や建材などがあり、様々な分野に広く利用されている。電子顕微鏡の標本を作成する際にも用いられる。

3. 蒸着に真空が必要となる理由

容器内に残存気体分子が多い場合、蒸着材料の分子が基板に達する前に気体分子に衝突して平均自由行程が短くなり、基盤に届きにくくなる。また、気体分子が不純物として混入したり、ヒーターを損傷することもある。そのため、蒸着には高真空が必要になる。蒸着には10-3~10-4 Pa程度の真空度が必要とされ、真空のためには真空ポンプが用いられる。

図1 真空蒸着
図1 真空蒸着

4. 薄膜の形成初期過程

薄膜の成長には一様な膜が逐次形成される単層成長と、核が発生してそれが成長・合体して膜となる核成長があり、それぞれで形成過程が異なる。どちらの様式で成長するかは主として膜物質と下地物質の組み合わせで決まる。また、これらの組み合わせで成長するものもある。

図2 単層成長と核成長
図2 単層成長と核成長

(a) 単層成長(monolayer overgrowth, MO)

下地面に到着した原子が下地面を一様に覆う単原子面を逐次形成する様式。更にこの中でもMO-1型とMO-2型に分けられる。

(1) MO-1型(PbSe/Pbs, Au/Pd, Pd/Au)

膜が薄い間は下地結晶に強制されて、コヒーレントな同じ格子定数の格子を作る。これは成長物質自身としては弾性的にひずんだ状態で、熱くなるとひずみに耐え切れず、不一致転位を導入して固有の格子定数の構造になる。

図3 MO-1型
図3 MO-1型

(2) MO-2型(Fe/Cu, Co/Cu)

薄膜が下地の影響を受けて異常な構造を持つという下地擬似構造のより顕著なものとして、結晶構造も下地に擬似的になる場合がある。MO-2型とは、この擬似構造が単層成長様式で形成される場合、厚さの増加と共に不一致転位、変態を伴って固有の構造になるものを差す。

(b) 核成長(nucleation and growth, NG)

図4 核成長
図4 核成長

下地面に到着した原子は、表面に吸着され、下地と熱平衡になるが、熱振動のため拡散を繰り返し、同時にある確率で再蒸発する。再蒸発があまり激しくない場合には、相次いで到着する原子は下地面上に蓄積し、そこに二次元気体を形成する。その密度がある限界を超えると、ある数の原子が会合 した核が形成され、凝結が起こる。それらが成長すると互いに接触、合体して島状(island stage)になり、島が連なって海峡を残す状態(channel stage)になり、海峡が穴に縮まった状態(hole stage)を経て、ついに一様な連続膜となる。

(1) NG-1型(Au,Ag/MoS2, Au,Ag/MgO)

Au,Ag/MoS2に代表される典型的な核成長で、一般的な核生成の過程を経過する間に、あたかも液滴のような速い合体を行うことと、連続膜が出来上がる直前まで二次核形成が絶えず繰り返されることが特徴である。

(2) NG-2型(PbS,PbSe/MgO, LiF/MgO)

NG-1と同じく核成長の一般的経過をたどるが、二次的な核形成が起こらない、合体がゆっくり起こり、欠陥の解消があまりない、合体は島と島が接触した後も、それぞれの成長を続ける形で進行するなどの点で異なる。

(3) NG-3型

MO-1、MO-2のように核成長した粒子が、成長初期には完全に下地結晶と同じ格子周期を持ってひずむが成長するにつれて不一致転位の導入によってひずみを緩和していく。

(4) NG-4型(Pb/MoS2, Sn/SnTe)

NG-1~NG-3はいずれも結晶質の核ができる場合であるが、NG-4では、まず液相の核ができ、これが後に結晶化する。

表2 蒸着膜の成長様式
-様式初期過程成長中の特徴
核成長NG-1固相核形成液滴様合体と速い再結晶。二次核形成の反復。
NG-2固相核形成緩慢な合体、再結晶。二次核形成なし。
NG-3固相核形成不一致転位導入による下地との格子不一致の緩和。
NG-4液相核形成液相でできた核が成長に伴って固化。
単層成長MO-1単純ひずみによる下地擬似構造不一致転位の導入によるひずみの緩和。
MO-2格子変態による下地擬似構造不一致転位の導入および格子変態による固有構造への復帰。

追記1. 成膜方法

(1) レーザアブレーションMBE(Laser Ablation MBE)

パルスレーザをターゲット上で集光して、そのエネルギーでターゲットの表面を昇華させ、飛び出した微粒子を基盤に堆積させて成膜する方法。
高温超電導体、強磁性体、強誘電体、金属などの高品質な薄膜を作るのに適している。

(2) RFプラズマCVD(Radio Frequency Plasma CVD)

工業用周波数(13.56MHz)の高周波(RF)電力による放電を利用して反応させる方法。
直流プラズマCVDでは不可能な絶縁体薄膜の形成も可能である。

(3) ECRプラズマCVD(Electron Cyclotron Resonance Plasma CVD)

2.45GHzのマイクロ波電力とECR磁界(875G)によって、マイクロ波が吸収増幅されて生ずる放電を利用する方法。
RFプラズマCVDと比べて低温で良質な薄膜が作成できる。

追記2. 平均自由行程

平均自由行程とは、粒子が他の粒子と衝突せずに運動できる距離、つまり他の粒子にぶつかってから次の粒子に衝突するまでに運動する距離の平均値を言う。その距離は次のように計算される。ただし、l[m]は平均自由行程、n[1/m3]は気体分子の密度、σ[m2]は衝突断面積である。

l=1/nσ

空気の場合、10-3Pa以下の真空度でおよそ10m以上になり、ほとんどの気体分子が容器内の壁から壁へと直接到達するようになる。そのため、真空蒸着ではこの程度の真空がよく用いられる。

参考文献

  1. 日本表面科学会 [図解]薄膜技術 培風館 p8~21
  2. 日本金属学会 薄膜・微粒子の構造と物性 丸善株式会社 p4~25
  3. 電気学会 電子・イオンビーム工学 オーム社 p8~10